小規模宅地の特例(特定居住用宅地について)

質問

私は主婦(70歳)です。
2ヶ月ほど前に夫(74歳)が亡くなりました。

相続人は次の3人です。

  • 私(妻・母)
  • 長男
  • 長女

私は夫と同居していて、長男・長女は家を出て独立しています。

先日、3人で話し合いをしたところ、自宅の土地・建物は私(妻・母)が相続することとなりました。

私が夫の自宅を相続して、そのまま住み続ければ、相続税が安くなる制度があると聞きましたが、詳しく教えて頂けませんか?

回答

IMG_7986-1.jpg

税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

ご質問の制度は、「小規模宅地の特例(しょうきぼたくちのとくれい)」と呼ばれる制度です。

小規模宅地の特例とは、税務署が、
「亡くなった方の家族の住まいや、事業を保護するために、土地を特別に安くしてあげましょう」
と、特別に作ってくれた制度になります。

この制度は細かな種類があり、条件が色々あるのですが、ご質問のケースでは、小規模宅地の特例のうち、

「特定居住用(とくていきょじゅうよう)」

という制度を使えるかと思います。

なお、ここでは分かりやすくご説明するために、「亡くなった被相続人=父」という前提で、ご説明することにします。

 平成28年時点の法律を基に記事を作成しています。制度改正や細かな条件があるため、実行前に必ず税理士等の専門家にご相談ください。

相続税理士による実務アドバイス

小規模宅地の特例の、「特定居住用宅地」とは?

以前、小規模宅地の特例は、いくつか種類があることを、ご説明しました。

※詳しくは、こちらの、相続税が節税できる「小規模宅地の特例」の概要について、をご覧ください。

このうち、今回は、特定居住用宅地についてご説明していくことにします。

この特定居住用という制度の趣旨ですが、亡くなった方と一緒に住んでいた方の居住の保護にあると言われています。

例えば、次のようなケースを想定してみましょう。

tokuteikyojuuyoukihon.png

父が所有している自宅(土地・建物ともに父が所有しているとの前提)に、父と母が同居しているとしましょう。
そして父が亡くなります。

そのような場合、父が持っていた自宅の土地に、高い相続税がかかると、相続税を払うために自宅を売却することになってしまいます。
そうすると、残された母は、自宅から出ていかなければなりません。

そのようなことを考え、税務署は、次のように、土地を値引き?してくれることになっています。

  • 土地価額から8割を減額できる
  • ただし、330㎡(100坪)まで

例えば、土地の価格が1億円で、土地面積が330㎡以下の場合は、つぎのように減額することができます。

「1億円-1億円×80%=2,000万円」

1億円の価値がある土地が、2,000万円になるのです。

 あくまで、相続税計算上の計算で、実際の土地の価値が下がるわけではありません。また、建物は減額してくれません。あくまで、土地だけが減額できる制度です。

この特定居住用の制度が使うことができれば、相続税を大幅に安くすることができます。
ですが、いくつかの条件を満たさなければなりません。

特定居住用宅地を使うための条件とは?

小規模宅地の特例のうち、特定居住用宅地については、原則として、次の要件が必要とされています。

  • 申告期限(相続開始から10ヶ月以内)に取得すること
    (遺産分割を終えること)
  • 配偶者か親族が取得すること
    (赤の他人はダメ)
  • 申告期限までに土地を所有し続けること
  • 申告期限まで住み続けること
  • 申告期限までに相続税申告書を税務署に提出すること

これを図にすると、つぎのようになります。

shokiboyouken.png

要するに、税務署は、
「相続税の申告期限である10ヶ月以内に、きちんと自宅の名義を変更してください。そして、そのまま所有し続け、さらにそのまま住み続けてください。そうすれば、土地を特別に値引き?してあげますよ」
と、言ってるんですね。

これが原則なんですが、配偶者や遠方にいる子供が相続した場合は、住み続けなくても良かったりします。
また、配偶者が相続した場合は、保有し続けなくても良かったりします。
(すぐに売却しても大丈夫な場合があるんです)

ですから、それこそ無数のパターンが考えられます。
ですので、ここでは一番良くあるパターンをもとに、ご説明していくことにします。

 遺言書があり、遺言書どおりに取得する場合は、遺産分割協議は必要ありません。

特定居住用宅地の具体例

特定居住用宅地は、大きく分けて、次の5つのパターンに分けることができます。

1.父と母が同居していた場合

これは、一番使われているケースだと思います。

tokuteikyojuuyou3.png

父と母が同居しており、父が亡くなった。
この場合は、普通は母が自宅を相続することが多いのではないでしょうか?

というのも、遠方に住んでいる息子が相続したら、母の居住が脅かされるかもしれないからです。
(万が一、母と息子さんがケンカした場合、息子さんが自宅を売却してしまうかもしれないからです・・・)

このケースは、上記の図のように、相続税の申告期限(原則として相続開始から10ヶ月)までに、遺産分割協議を終え、自宅を自分のものにしてしまえば、特定居住用宅地の特例を使うことができます。

つまり、保有要件(申告期限までに土地を持ち続けること)、居住要件(申告期限までに住み続けること)のいずれも、必要ないんですね。

ですので、極端な話し、相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに、遺産分割協議書を作成して土地建物を母のモノにしてしまい、税務署に相続税申告書を提出すれば、小規模宅地の特例を使うことができます。
たまにあるのですが、相続後、すぐに遺産分割協議をして、自宅を母のものにする。
そして母は自宅を売却して、その資金で老人ホームに入る。
そのような方もいらっしゃいますが、これもオーケーなんですね。

ところで、母が相続すると、なんでここまで要件が緩和されるのでしょうか?
それは、税務署が、
「遺された奥様には、生活の本拠(自宅)が必要でしょう。だから、大サービスで?自宅の敷地を8割減額してあげましょう」
そう考えてくれたと思われます。

このパターンが一番多く、かつ、一番簡単だと思います。
税理士も、あまり悩まず、気楽に申告できるパターンになりますね(^_^)

2.同居している子供が相続した場合

この図のようなケースも多くあります。

tokuteikyojuyou5.png

被相続人である父と、息子(または娘)が同居している。
この場合、

  • 息子が申告期限までに取得する
  • 息子が申告期限まで住み続ける
  • 息子が申告期限まで保有し続ける
    (すぐに売却しない)

この条件(他にも細かな条件はありますが)を満たして、期限内に税務署に相続税の申告書を提出すれば、息子は小規模宅地の特例を受けることができます。

さきほどの、配偶者(母)が相続した場合と比べて、条件が少し厳しくなっています。
つまり、申告期限までに、「住み続けること」「保有し続けること」が要求されているんですね。

税務署は、
「息子さんが自宅を引き継ぎ、そのまま住み続けるのであれば、相続税の計算を特別に安くしてあげよう」
と考えてくれるんですね。

このパターンも、よく出てきますので、きちんと条件を満たしているのか確認しておきましょう。

3.一人暮らしの父が亡くなった場合

田舎で一人暮らしをしている父が亡くなった。
そして、都会に出てきている息子さんが、その自宅を相続した。

そのようなケースもあるでしょう。
具体的には、つぎの図のようなパターンです。

ienakiko1.png

この場合は、つぎに要件を満たす必要があります

  • 父が一人暮らしであったこと
    (母や他の相続人と同居していないこと)
  • 配偶者が既にいないこと
  • 相続開始前3年以内に息子・息子の嫁に持ち家がないこと
  • 息子が申告期限までに取得する
  • 息子が申告期限まで保有し続ける
    (すぐに売却しない)

このパターンは、いわゆる「家なき子」とよばれるものです。

 「家なき子」という名前は、フランスの作家、エクトール・アンリ・マロの「家なき子」からきたそうです。安達祐実さんが演じていたドラマではありません(^_^)

この場合、税務署は次のように考えてくれます。

「東京に出てきて頑張っている息子さんも、いずれは田舎に戻って、父上の自宅に住むだろう。その自宅に高い相続税をかけると問題だ。だから、一定の条件を満たせば、特別に小規模宅地の特例を使わせてあげよう」

この「一定の条件」とは、つぎのようなものです。

  • 父が一人暮らしであったこと
    (母や他の相続人と同居していないこと)
  • 配偶者が既にいないこと
  • 相続開始前3年以内に息子・息子の嫁に持ち家がないこと

この制度の前提は、
「息子が将来、田舎に戻って家を守る」
ということです。

配偶者(母)がいたなら、母が相続して住み家を守りますから、ダメなんです。

また、息子とその嫁に持ち家があれば、田舎の自宅を守る必要はありませんから、これも使えません。
(どうしても小規模宅地の特例を使いたいのであれば、息子が住んでいる自宅を賃貸にだして3年待つ、という方法もありますが・・・)

ところで、この特例は息子や娘だけでなく、親族、具体的には父の兄弟も使うことができます。

実際に私が取り扱った事例でも、高齢の3兄弟がいて、そのうちの一人が亡くなり、他の兄弟が、この「家なき子」を使って、小規模宅地の特例を使えたというケースがありました。

 「家なき子」とありますが、子供だけでなく、兄弟や孫も使えるんですね。ただし、相続税の2割加算の問題がありますが・・・。

この「家なき子」パターンで注意が必要なのは、

「小規模宅地を使えないと思っていたが、実は使えた」

というケースがとても多いんです。
(要するに、使えるのに、そのことに気がつかなかったと、いうことになります)

ですので、くれぐれも気をつけて条件を確認する必要がありますね。

4.都会の一軒家(またはマンション)に息子が住んで学生をしている場合

この図をご覧ください。

tokuteikyojuuyou7.png

このケースでは、父が持っている都会の一軒家に、息子さんが住んでいます。
そして、息子さんには学生をしているので、収入はなく、父からの仕送りで暮らしている。
そんな前提です。

 ですので、父と息子は同居していません。

今までのケースでは、父が住んでいる自宅を相続したら、小規模宅地の特例が使えるというパターンでした。

ですが、このパターンでは、父が住んでいない土地に小規模宅地の特例が使えるという、変則的なパターンになります。

これは、税務署が、
「都会に出てきている息子さんは、父上の仕送りで暮らしていた。今ここで、その都会の一軒家に高い相続税をかけると、その息子さんの生活を脅かすことになるだろう。だから、父上は住んでいないが、同一生計であった息子さんを守る意味で、特別に小規模宅地の特例を認めてあげよう」
と考えてくれたからなんですね。

この場合には、今までのように、次の条件を満たす必要があります。

  • 父と息子が同一生計である
  • 息子が都会の土地を申告期限までに取得する
  • 息子が都会の土地を申告期限まで保有し続ける
    (すぐに売却しない)
  • 地代や家賃の支払いがなかったこと

同一生計(生計が一である、とも言います)とは、生活のお財布が一緒である、という意味です。

息子は父からの仕送りで暮らしています。
(学生なので収入はありません)

そうすると同一生計という要件を満たすので、息子が都会の一軒家を相続して、住み続ける、持ち続ける、という条件を満たせば、父から相続した都会の一戸建てに小規模宅地の特例を使うことができます。

ところで、この「同一生計」という要件ですが、結構厳しいです。

息子が学生であれば問題ないでしょうが、会社員だったらどうしますか?
会社員としての収入でやっていける訳ですから、例え、父から仕送りをもらっていたとして、原則として「同一生計」の要件は満たさないと考えられています。

 この同一生計の問題は難しいので、別の機会でご説明しましょう。

この例では、都会に出てきている大学生の例でしたが、他にも色々なケースで応用できますので、きちんと確認しておきましょう。

 

今回は、小規模宅地の特例のうち、特定居住用宅地についてご説明してきました。
この特定居住用は、小規模宅地の特例のなかでも、最も使われることが多いものです。

よく、「遺産分割の方法によって相続税が節税できる」と言われますが、この小規模宅地の特例は、その最たるものですので、理解を深めて頂き、余分な相続税を払わなくて済むようにして頂きたいと思います。

 

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。

 

ご依頼・ご相談

  • 初回の相談は無料
  • 地元エリアは出張相談可
  • 相談ご予約で夜間・土曜日面談対応いたします
  • 当日・前日でも空きがあれば面談対応いたします

営業時間:平日10:00~17:00

相談予約で時間外・土日祝日面談対応いたします。

初回相談は面談のみとなります。

メールフォームでのお問い合わせはこちら