相続の思い出(1)「雪の降る日の、境界標確認」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

東京都中央区日本橋の税理士、石橋です。

色々なお客様や、知り合いの税理士先生から、相続や相続税で、どのような問題があって、どのように解決したのか?
その実体験を書いて欲しいとのご要望がありましたので、守秘義務に違反しない範囲で、書いてみようかと思います。

物納するためには、境界標(杭)の確認が必要!

皆さんは、「物納(ぶつのう)」という言葉を聞いたことがありますか?

税金はお金で払うのが原則です。

ですが、相続税は、お金でなく、土地や株式といった「物(もの)」で払うことも認められているんですね。

※ただし、お金で払うことができません、という証明書を出さなければなりません。これが最大の難関になるんですが・・・。

私のお客様で、相続税を物納で、具体的には土地で払うという方がいらっしゃいました。

税務署は、色々な条件を出してきます。
例えば、つぎのような条件です。

  • 測量図をきちんと提出しなさい
  • 測量図には正しい面積が書かれているか?
  • お隣さんとの境界確認書にハンコをもらっているか?
  • 土地の前に障害物(ゴミ置場やカーブミラー等)がないか?
  • 土地の上を電線が走っていないか?
  • 測量図にある境界標(杭)がきちんと整備されているか?

これ以外にも色々な条件があります。
これを、一つ一つ確認していくのが、土地を物納するための条件整備です。

上記項目の最後に、「境界標(杭)がきちんと整備されているか?」という部分があります。

皆さん、境界標(きょうかいひょう)を見たことがありますか?
境界標とは、つぎのようなものになります。

境界標の写真

これは、コンクリートで出来ている境界標ですが、これ以外にも色々な素材・材質で作られています。
例えばですが、

  • 鉄鋲(てつびょう)・・・くぎのような形状
  • 石・・・壊れやすい
  • プラスチック・・・熱に弱い

この他にも、色々な材質や形状の境界標(杭)があります。

境界標は、基本的には土地の四角(よすみ)に設置され、「その土地の境界がどこまでなのか?」ということを示す、大事なものになります。

そして、この境界標をもとに、測量図が作られるわけです。
測量図には、土地の面積が書かれていますが、それ以外にも、「境界標の種類」という項目があります。
例えば、つぎのような部分です。

境界標

この図のように、

  • 左上は「コンクリートの杭」
  • 右上は「ミカゲ石の杭」

といったように、境界標の素材が書かれています。
(でないと、杭の種類や場所が特定できないからなんですね)

土地の物納とは、言い換えると、「国に土地を売り渡す」ということになります。
ですので、受け取る側の税務署(正確には財務局ですが)も真剣です。

万が一、境界標(杭)が、土地の四隅にきちんと埋まっていないと、どこからどこまでが、その土地が分かりません。

特に、境界標は、設置してから数十年すると、(材質にもよりますが)劣化して、割れたり抜けたりしていることがあるんです。
そうすると、その土地がどこまでなのか、境界が確定できないことになります。

ですから、物納申請をした後は、必ず税務署と財務局が一緒に土地を見に来て、境界標がきちんと埋まっているのか確認します。

万が一、境界標が抜けていた、境界標が壊れていた、ということになったら、すぐに修復しなければならず、物納も認めてもらえない可能性があるんですね。

ですので、税務署に物納申請する前に、境界標が測量図どおりに、きちんと埋まっているか確認する必要があるんですね。

雪の降る日に、震えながら境界標を確認した日

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境界標の確認は、本来は、土地家屋調査士の仕事です。

 土地家屋調査士とは、土地を測量したり、境界標を設置したりするお仕事をする方です。

ですが、この物納申請のときは、色々な事情があって、境界標を、私と不動産に詳しい知り合いの、2人で確認しに行くことになりました。

場所は都内なんですが、季節は冬。
天気予報は、昼頃から雪が降るとのこと。

当日は3件の土地をまわる予定でした。

それぞれの土地に、測量図通りの境界標が、きちんと設置されているか。
要件はそれだけなんですが、3件とも貸地(他人に貸している土地のことです)であり、それぞれ借主の方の自宅になっています。
ですので、事前にお電話し、約束を頂きました。
(このお約束にも、細心の注意が必要となります)

1件目のご自宅のインターホンを鳴らし、中に入れて頂きました。
測量図をカバンの中から取りだし、測量図上の境界標の種類(鉄杭や石杭)と一致しているか確認。
1件目は順調に終わりました。

次に2件目のお宅のインターホンを鳴らし、中に入れて頂いた時に、ちょうど、雪がみぞれに変わったのです。

みぞれが、手の上に降りかかってきます。
当日の気温は約2度。指が動かなくなってきました。

ですが、測量図上に必死にメモを書き、境界標が測量図と一致しているのか、記録していきました。

家主の方々も、「大丈夫ですか?」と、傘を持っていてくれますが、みぞれが強くなってきて、大変でした。

さらに3件目に移動すると、傘が役に立たないほどの風が吹いてきて、測量図が水浸しに・・・。
カバンから、メモ帳を取り出して、そちらにメモをしました。

結果として、1件だけ、測量図とは違う境界標が設置されておりました。
この原因については、後日調査して、理由を税務署に提出してOKとなりました。

税理士は物納をやりたがならいんです。
理由は大変だからです。
税務署との交渉、借地人様との交渉、依頼者への説明・・・。

 逆に、税務署の方は、結構、税理士に同情してくれますね。「石橋先生の苦労を、依頼者を呼んで説明してあげたいくらいですよ~」と、お褒めの(?)言葉を頂いたこともあります・・・。

 

お金だけを追い求めないこと

税理士に限らず、他のお仕事にも言えることですが、

「お金だけを追い求めない」

という姿勢が大切だと、私は思います。

物納は、はっきりいって、お金にはなりません。
税務署(正確には、税務署の親分である国税局になります)への説明も大変ですし、不動産業者さんもお金になりませんから、積極的には協力してくれません。

また、色々な関係者(税務署、土地家屋調査士、地元の不動産業者、依頼者、借地人)との連絡調整も大変です。
これら全員にメールで連絡できれば、まだ簡単ですが、年配の方も多いですから、電話連絡が必須になります。

これら全ての問題を整理し、解決まで導く。
これは、大変ですが、同時にやり甲斐でもあります。

私自身、この経験で、他の税理士ができないような経験ができた。
そして、お客様をお守りできたと思っています。

お金にならない仕事でも、誠心誠意尽くすこと。
それが、自分自身の引き出しを増やし、他の事例にも役立つといえるのではないでしょうか?

税理士の実務に近道なし。
その姿勢が、これからの税理士に求められるんだと思います。

 

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。