相続の手続きで気をつけること(つぎに遺産分割協議書を作る)

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

前回は財産目録についてご説明しました。

財産目録をもとに、皆様でどのように分けるか。そのお話し合いができたのであれば、その内容を書類にしなければなりません。

この書類を遺産分割協議書といいます。

なぜ遺産分割協議書を作る必要があるのか?

法律上は、遺産分割協議書という書面を作る必要はありません。ですが、次の場面でどうしても必要になってくるのです。

  • 銀行での預金解約
  • 不動産の名義変更(登記手続き)
  • 相続税の税務申告

銀行での預金解約

銀行は相続人間のトラブルに巻き込まれたくありません。ですので、預金をどのように分けるかを書いた書類をだしなさい、と言ってきます。この書類が遺産分割協議書になるのです。

相続人は法定相続分について払い戻しを受ける権利があると思うのですが、実務上は、裁判等をおこさなければ、払い戻しに応じてくれません(一部の金融機関では応じてくれるところもあります)。

この他にも、上場株式があれば、証券会社で名義変更手続きをすることになりますが、これにも原則として遺産分割協議書が必要になります。

不動産の名義変更(登記手続き)

不動産を相続した方は、不動産の名義をご自分に変更する必要があります。

不動産は高価で大切なものですから、誰が持っているか、その土地はどこにあるのか、といった情報を、お役所で公開しています。

この公開されている情報(書類)を「登記簿謄本(とうきぼとうほん)」といいます。

相続があったら、登記簿謄本の所有者の欄を書き換えなければなりません。書き換えると言っても、必要な書類がたくさんありますし、万が一間違えてしまったら、やり直しになります。

時間もかかりますので、ほとんどの方は、登記の専門家である司法書士にお願いすることになりますが、お願いするにも遺産分割協議書は必要になります。なお、必要があれば、司法書士が作成してくれます。

相続税の税務申告

相続税がかかる場合は、相続税を計算した申告書(相続税の申告書)を、税務署に提出することになります。

ですが、税務署は、遺産分割協議書がありませんと、誰がどの財産をもらったか、分かりません。

また、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった、相続税が安くなる制度を使おうとする場合は、必ず提出することになっています。

ですから、相続税がかかるくらいの財産をお持ちの方は、遺産分割協議書を必ず作る必要があります。

 

遺産分割協議書を書く際のポイント

本屋さんに行きますと、相続のお手続きの本が山積みになっています。

それらには、遺産分割協議書のひな形がのっていますから、丸写しすれば、遺産分割協議書がご自分でも作れることでしょう。

遺産分割協議書に決まった書式はありませんので、本を参考にして、自由にお書き頂いて大丈夫です。

ですが、相続の専門家として、ご注意頂きたい点がございます。簡単に申しますと、次がポイントになります。

財産をきちんと特定できるように書く

「**銀行**支店の預金」だけでは分かりませし、後々トラブルになるかもしれません。ですから、「**銀行**支店・普通預金・口座番号******」と書けば、なお良いと思います。

借金は勝手に分けられない

銀行からの借入金がある方は、ご注意ください。

というのも、借入金は相続人同士で勝手に分けることができないからです。

まずは銀行担当者に相続があったことをお伝えください。そして、「長男が全部の借入金を相続します」といったように、誰が借入金を相続するのかも伝えてください。

銀行も、きちんと返済できるか考えて、良い悪いの返事をするはずです。例えば、賃貸アパートとひも付いている借入金があった場合、賃貸アパートは長男、借入金は次男といったようにしますと、銀行はきちんと返せるか、審査します。お気をつけください。

財産が多い場合は財産目録一覧の形式にする

財産の数が多い方は、文章で長々と書いても分かりませんので、「**が相続する財産は財産目録の通りとする」と書いて、その後に財産目録(一覧表)を載せましょう。

枚数が多い場合は袋とじをする

遺産分割協議書は、普通は何枚かになります。何枚かになった場合は、改ざんのない証明として、それぞれのページに割印(わりいん)をおすことになります。

ですが、枚数が多い方は、一枚一枚に割印をおすのも大変ですから、袋とじにしてしまいましょう。袋とじキットは、大きな文房具屋さんやアスクルさんで売っていますので、取り寄せるのも良いかもしれません。

ちなみに、私が担当した相続で、一番、遺産分割協議書が多かった方で、20枚近くになりました・・・。このような方は、袋とじが必須になります。

(場合によっては)捨印を押す

銀行での預金解約や不動産登記では、遺産分割協議書を提出します。ですが、万が一、遺産分割協議書の内容に間違いがあった場合、作り直すのも大変です。

そんなときは、後日変更できるように、捨印(すていん)を押しておくと良いかもしれません。ですが、相続人同士の仲が悪いようでしたら、トラブルの元となりますので、やめておいた方がよいかと思います。

予想外の財産が見つかった場合の対応方法

財産目録を作成して、遺産分割協議を行いました。

大きな財産はもれなく書けるのでしょうが、細かな財産の見落としがあるかもしれません。

そんなときのために、次の3つのうちのどれかを遺産分割協議書に書いておいた方がよいでしょう。

「上記以外の財産が見つかった場合は、全て**が相続する」

よくあるのが、「上記以外の財産が見つかったら妻が全て相続する」といったパターンです。こうしておけば、万が一、少額の預金が見つかったとしても、遺産分割協議書を作り直す必要がありません。

ですが、万が一、大きな財産が見つかった場合はどうでしょう?そんなときでも、このように書いてしまったら、強制的に妻が取得してしまうことになります。ですから、この方法は、大きな財産は絶対にない、という確信があるときに行うべきでしょう。

「上記以外の財産が見つかった場合は、**の割合で分ける」

公平に分けようとするなら、この方法がよいかもしれません。ですが、万が一、不動産が漏れていた場合、その不動産が共有財産になってしまいます。

ですから、この方法は、不動産が絶対になく、見落としの可能性がある財産は金融財産のみ、という場合に使うと良いでしょう。

「上記以外の財産が見つかった場合は、もう一度、遺産分割協議をする」

この方法が一番良いと思いますし、一番公平だと思います。ですが、相続人の中で、遠方にお住まいの方がいらっしゃる場合や、あまり仲がよろしくない相続人同士ですと、再度お集まりになれません。

その場合は、上記2つの方法をアレンジして、記載することになります。税金も関係しますので、このあたりは、相続経験豊富な税理士の、腕の見せ所ではないでしょうか。

 

遺産の分け方について

よくご質問を頂くのですが、遺産の分け方は、法定相続分どおりでなくても大丈夫です。

法定相続分は、「お話し合いがまとまらなければ、この割合(法定相続分)を参考にして分けなさい」というものです。ですから、円満に遺産分割協議が進むのであれば、「長男100%・次男0%」でも全く問題ありません。

また、寄与分(きよぶん)のご質問も頂きます(このあたりは弁護士先生の業務の範囲ですが)。

よく、「他の兄弟は家から出て行ったのに、私は父と同居して何十年も面倒を見てきた。だから、寄与分が認められるべきだと思います」といったお話を聞きます。

ですが、寄与分が認められるためには、相当ハードルが高いと思ってください。子が親の面倒を見るのは当然のこと、法律はそう考えるのです。

 

遺言書があった場合

遺言書どおりに分けないとダメですか?

結論から申し上げます。遺言書どおりに分けなくても問題ありません。

例えば、ご主人が亡くなり、「全財産を妻に渡す」という遺言書があったとしましょう。

厳密に言えば、これは包括遺贈(後でご説明します)となりますので、3ヶ月以内に家庭裁判所に放棄の申し出をしなければ、遺言書が有効になり、妻が全財産を相続してしまいます。

そして、その後に、長男が一部を相続したら、妻から長男への贈与とも考えられます。

ですが、税務署はそんな酷なことを言いません。

同様のご質問が多かったのでしょう。国税庁のサイトでも、そのことについて解説しています。

なお、国税庁のサイトも、表現が毎年、微妙に変化していますので、こまめにチェックすると面白いかもしれません。

ただし、不動産については、相続登記をしてしまったら原則としてダメです。この辺りは、事前に税理士と打ち合わせながら進めましょう。

遺言書に「(相続人以外の)第三者に財産を渡す」と書かれていたら・・・

この場合は、第三者を交えて遺産分割協議書を作成する必要があります。

まずは、その遺言書に書かれている文章が、「特定遺贈」か「包括遺贈」かを判断する必要があります。

特定遺贈とは、「誰に」「何を」渡すかが、きちんと書かれている文章です。
特定遺贈と判断されますと、その第三者は、その財産をもらう権利のみを有しています。ですから、他の財産をもらいたいという事は言えません。
万が一、他の財産をもらってしまい、その第三者が相続人以外の方であれば、贈与税がかかってしまう可能性があります。

包括遺贈とは、「誰に」「何割」渡すかが、書かれている遺言です。
たとえば、「妻に2分の1を渡す」といったように、個別具体的に書かれていなく、割合だけが書かれている遺言です。
包括遺贈の場合、指定された方が相続人であれば問題ないのですが、第三者が指定されていますと、その方を交えて遺産分割協議をし、財産を分けることになります。
トラブルが予想されますので、遺言書を作られる際は、第三者への包括遺贈は、できるだけおやめ頂く事にしています。

なお、特定遺贈か包括遺贈かは、お亡くなりになった方の意思をくんで、相続人と弁護士との間で判断することになります(といっても判断に悩むことも多いです)。

 

遺産分割協議書は、一度作成してしまうと、原則として作り直しができません。

法律(民法)上は、何度でも作り直しができます。

ですが、税務上は、作り直しをすると、「一度相続した財産を、他の人に移動させた」と税務署は考えます。そうしますと、今度は贈与税がかかる可能性があるのです。

相続税がかかり、さらには贈与税もかかってしまう。そんなことにならないよう、税金のことを考えた遺産分割協議書を作りたいものですね。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。