相続税の勘違い(5)「財産から引ける債務とは?(債務控除・葬式費用について)」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

こんにちは。中央区日本橋の税理士、石橋です。

相続税の計算は、注意するポイントがとても多いのですが、今回は相続税から引けるもの、つまり「債務控除」のお話しをしてみようかと思います。
といいますのも、債務控除について触れた書籍は少なく、実務的にも判断に迷うことが多いからです。

債務控除とは何ですか?

債務控除(さいむこうじょ)とは、相続税を計算する際、財産から引けるものです。
こちらの図をご覧ください。

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財産から債務控除を引いた金額に、相続税がかかります。
つまり、債務控除の金額(赤い部分)が増えれば触れるほど、相続税を安くすることができます。

他の税理士先生が作られた相続税の申告書を見ておりますと、結構、引き忘れている金額があるんですね。
ですので、債務控除は漏れなく、忘れずに集計して、税務署に申告したいものです。

なお、ここでのご説明は、居住無制限納税義務者(国籍・住所とも日本にある一般的なパターン)を想定しています。
海外に国籍がある、海外に住所がある、といった方は、債務控除できる金額が狭くなりますので、ご承知おきください。

 

1.債務控除できる借入金とは?

債務控除の趣旨ですが、
「被相続人(お亡くなりになった方)の純財産(財産から借金等を差し引いた財産)に相続税をかけよう」
という考え方から来ています。

ですが、何でもかんでもひける訳ではありません。
細かな法律があるのですが、ポイントは次のとおりです。

(1)相続開始時点で現実に存在するもの

相続税の計算で一番大切な考え方があります。

それは、「相続開始日で判断する」ということです。

相続開始日とは、原則としてお亡くなりになった日です。
この日の前や後を基準として、意図的に判断したのでは、納税者(我々)の間で判断が異なることになり、ひいては課税の不公平につながります。
ですから、財産は相続開始日の価値で計算しますし、債務控除も相続開始日の価値で計算します。

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こちらの図のように、被相続人が生前にお借り入れをした場合、相続開始時点で債務(借入金)は現実にあります。
ですから、銀行借入金であれば、お亡くなりになった日の借入金残高(まだ返していない元本)を、債務控除として引くことになります。

(2)確実な債務であること

また、何でもかんでも債務控除できる訳ではありません。

税務署は、「確実な債務」しか控除を認めません。

では、確実な債務とは何でしょうか?

債務、特に借入金には、「保証債務」と「連帯債務」があります。
結論から言いますと、保証債務は原則として控除できませんが、連帯債務は控除することができます。

「保証債務について」

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保証債務とは、要するに、他人の借金のための保証人になった、ということです。
この図で言いますと、知人が銀行から1億円借りて、被相続人が借金の保証人となったということです。

この状態で被相続人が亡くなっても、返済は今まで通り、知人が行っていますから、被相続人は、まだ何ら負担していません。
ですので、確実な債務と言えませんから、この状態では控除できないんですね。
(知人がまだ返せており、被相続人に取り立てがきていない場合は債務控除できません。当然ですよね)

ですので、相続が開始してから暫くあとに、この知人が借入金を返済できなくて夜逃げしてしまった場合。
この場合は、債務控除できません。「相続開始日現在」で確実な債務となっていませんでしたから。

ですが、相続が開始してからすぐに知人が夜逃げした場合は、特例的に債務控除が認められる場合もありますが、あくまで特例です。

ですので、保証債務は原則として引けない。これは覚えておきましょう。

「連帯債務について」

連帯債務とは、次のような借入をいいます。

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例えば、夫婦で1億円の住宅ローンを組むとしましょう。
そして、住宅の所有権が、夫が10分の7、妻が10分の3だとしましょう。

そうすると、夫婦間の債務の負担割合は、「7/10」と「3/10」になります。
(このような負担割合にしませんと、贈与税の問題が発生してしまいます)

実務的には、夫婦共同名義の返済用口座を作り、そちらから毎月住宅ローンを返済することになります。
なお、その口座へ入金する際は、「7/10」と「3/10」の割合で入金しなければなりません。
(そうしませんと、これまた贈与税の問題が発生してしまいます)

このような住宅ローンは「連帯債務」といいます。
つまり、共同して借入金を負担しているんですね。
このような債務は、保証債務と違い、いわば自分の債務ということができますから、債務控除の対象として引くことができます。
引ける金額は、本人の負担割合です。
このケースでは、夫の負担割合である7割、7,000万円を引くことができます。

ところで、ご注意頂きたい点があります。
それは、借入金関係の資料を見ても、夫婦の負担割合はわからない!ということです。

銀行と借入契約を結ぶ際は、夫婦が連名で署名しますが、この書類には、「誰が何割負担するか」なんて書いてないんですね。
(そうすると、万が一、返済できなくなった場合、銀行が自分の首をしめることになりますので・・・)

ですので、他の書類を見て、「この借入金は夫が7割、妻が3割」と判断する必要があるんですね。
では、どの書類を見て確認すれば良いのでしょうか?

それは不動産の登記簿謄本です。
このような住宅の甲区(所有権が表示されている部分)には、
「夫10分の7、妻10分の3」
と表示があるはずです。
原則として、この割合で判断するんですね。

保証債務、連帯債務といった言葉は、民法用語のため、あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、債務控除を判断するときには、これらの知識が必要ですから、違いを覚えておきましょう。

 

2.債務控除できる未払費用とは?

未払費用とは、被相続人が払うべきであった費用のことをいいます。
本来であれば被相続人が払うべきだったのですから、引けるのは当然ですね。

ですが、これも範囲がきまっています。

よくあるのが、次のようなものです。

  • 税金(所得税・消費税・住民税・事業税・固定資産税等)
  • 医療費
  • 生活費(光熱費・電話代等)

特に間違えすいのが、税金関係です。
これらは、実際に納付書が届いているから引けるもの、届いていないが引けるもの、といったように、取り扱いが細かく分かれています。

また、医療費も、所得税の準確定申告(お亡くなりになった方の確定申告)で引けたから相続税では引けない、と考えて引いていない税理士先生もいらっしゃいます。
(場合によっては、所得税と相続税、両方引けるパターンがあるんです)

 

3.債務控除できる葬式費用とは?

葬式費用も、債務控除の対象となります。

本来であれば、葬式費用を引けるのはおかしいんです。
といいますのも、債務控除の趣旨が、「被相続人が払うべきだったもの」だからです。
葬式費用は、被相続人が払うべきものではなく、遺された遺族が払うべきものですよね。

ですが、税務署も鬼ではありませんので、
「お亡くなりになった方のお葬式費用で、最低限かかるものだけ引いてあげよう
としてくれたんですね。

では、ここでの「最低限」とは、どのような範囲なのでしょうか?

(1)原則としてお通夜とお葬式の二日間の費用のみ控除できる

お葬式の費用が何でもかんでも引けたら、税務署も困ってしまいます。
ですから、原則として、お通夜から火葬までが引ける範囲となっています。
通常はお通夜と火葬を連日で行うでしょうから、最初の二日間の費用が引ける、と覚えると良いかもしれません。

ですので、初七日の費用は原則として引けません。ですが、納骨費用は引けます。この辺りが相当入り組んで難しいのですが・・・。

また、例外もあります。宗派によっては、お通夜と初七日を一緒に行うところもあります。
その場合は、最低限かかる費用として、控除できると思われます。

(2)細かなお手伝いさん費用も控除できる場合がある

お通夜には、地元の町内会の皆様にお手伝いにきてもらうこともあるでしょう。
そのような場合、タダという訳にはいきませんから、お気持ちをお包みしてお渡しするでしょう。

このような費用も、お葬式費用の一環として控除できます。
(葬儀会社に人の派遣をお願いしても、結局は費用がかかりますからね)

ただし、メモを書いて、相続税申告書に付けることをお勧めします。
「4月1日、**町内在住山田さん、葬儀お手伝い、1万円」
といったようにです。

(3)香典返しと、そうでないものとの区別をする

香典返しは、債務控除の対象となりません。
といいますのも、香典をもらっても相続税がかからないので、その裏返しだからです。

ですが、どれが香典返しになるのか、具体的に税務署は示してくれていません。
実務的には、香典返しは、「葬儀後に返すもの」と考えるのが一般的です。

ですので、葬儀に来てくださった方に、お焼香後に袋に入れてお渡しする、安価なお茶やお菓子は、香典返しにならないと思われます。
(債務控除の対象となると思われます)

なお、上記の取り扱いは、私の実務経験(税務調査等)と文献調査によるものですので、他の税理士先生と若干見解が異なる部分があるかもしれません。
具体的な内容は、税務専門家にお問い合わせください。

 

間違えやすいポイント!

債務控除は、金額があまり大きくないせいか、税理士でもあまり勉強していない方も多いです。
間違えやすいポイントをまとめましたので、参考にしてみてください。

(1)預かり保証金を引いていなかった

賃貸不動産をお持ちの方は、賃貸したときに、保証金(敷金)をあずかっているでしょう。
これは、入居者が退去したときに返すものですから、いわば借金と同じです。
ですので、賃貸借契約書を確認して、返すべき金額を引きましょう。
また、確定申告書の決算書を見ると、預かり敷金の金額が記載されているかもしれません。こちらも要チェックです。
なお、引ける金額は実際の返金額です。敷金の償却(一部をもらって返さない契約)がある場合は、実際の返金額だけが債務控除の対象になりますので注意してください。

(2)借入金の利息を計上していなかった

銀行からお金を借りている方は、利息をお支払いだと思います。
この利息ですが、前払い方式と後払い方式があります。

普通の住宅ローン等では後払い方式が多いです。
そうすると、例えば4月15日でお亡くなりになった場合、「4/1~4/15」までの利息については、相続が開始した4月15日現在では、まだ払っていないことになります。
その場合は、「4/1~4/15」の利息は、まだ払っていないわけですから、債務控除の対象となります。これの漏れが多いと思います。

また、これと逆の考え方で、前払い方式の場合は、先に利息を払っていますから、「4/1~4/15」の利息は、相続開始日の4月15日現在では払いすぎているわけですから、相続財産としてプラスの財産に計上しなければなりません。

借入金がある方は、前払い方式か、後払い方式か、きちんと確認する必要があります。
(そこまでチェックしていない税理士先生が殆どだと思いますが・・・)

(3)非課税財産の購入費用

仏壇といった財産は、相続税が非課税(かからない)ことになっています。
(これに相続税をかけたら、皆さん怒りますよね)

これと裏返しの考え方で、仏壇を買うための借金(借入金・未払金)は債務控除の対象とはなりません。
(考えてみれば当然ですよね。

ですので、相続開始日現在でまだ払っていない借入金や請求書については、非課税財産を購入するためのものでないか、何に使ったか、ヒモ付けして確認する必要があります。

 

債務控除は、金額が大きくないため、税理士でも簡単に考えている方が多いと思います。
ですが、きちんと時間をかけて調べれば、その分、相続税も節税できます。
ぜひ、面倒がらずに、債務控除についてもきちんと検討することをお勧め致します。

 

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。