相続税の勘違い(4)「限定承認が難しい、これだけの理由」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

みなさん、こんにちは。
東京都中央区日本橋で相続税の申告をしております、税理士の石橋です。

相続の手続きをお手伝いしていますと、たまに詳しく勉強されていらっしゃる方がいらして、
「限定承認(げんていしょうにん)って有効なんですか?実際に使うことができますか?」
というご質問を頂く事があります。

今回は、あまり馴染みのない、限定承認についてご説明していきまyそう。

限定承認とは何か?

限定承認とは、借金の範囲内で財産を相続することです。

そもそも、相続には次の3つがあります。

  1. 単純承認
  2. 相続放棄
  3. 限定承認

1.の単純承認は、ほとんどの方が行っている相続手続きです。
要するに、お亡くなりになった方の財産をそのまま相続するということです。

2.の相続放棄は、お亡くなりになった方について、財産よりも明らかに借金が多い場合に選ぶ方法です。
相続放棄は決められた期間(原則として相続の開始を知った日から3ヶ月以内)に、家庭裁判所に相続放棄の申請をする必要があります。

3.の限定承認ですが、これは、財産と借金のどちらが多いか分からないので、借金の範囲内で財産を相続するという制度です。
イメージすると、次のようになります。

限定承認(1).png

「???」の部分、つまり借金がどれほどあるのか分からない場合は、1.の単純承認ですと、財産以上の借金を背負うかもしれません。
また、2.の相続放棄ですと、思ったより借金が少なかった場合、損をしてしまうかもしれません。

ですが、限定承認ですと、次のようなイメージになります。

限定承認(2).png

限定承認をすると、財産以上に借金があっても、その部分については返済しなくても良くなります。
(正確には、全ての財産を原則換金して、そこから借金を払うことになります)

ですので、財産と借金、どちらの方が多いか分からない場合は、限定承認を検討すると良いかもしれない。
これが、教科書的な答えです。

限定承認が難しい、これだけの理由

限定承認は、一見、とても合理的で良い制度のように思えます。
ですが、年間約1,000件程度しか行われていないんですね。

なぜでしょうか?
それは、とても使いづらい制度だからなんですね。
その理由をいくつか挙げてみました。

(1)亡くなった方の財産に一切手を付けてはならない!

これが一番のハードルになります。

例えば、父親が急死したとしましょう。
そうすると、まずはお葬式の費用が必要になるでしょう。
奥様やお子様に手持ち資金があれば良いのですが、ない場合は、父親のタンス預金や銀行口座から引き出すでしょう。
(銀行はすぐに預金凍結をしないので、カードと暗証番号があれば父親の引き出せてしまうのです)
そうすると、先程ご説明した、「1.単純承認」となり、無条件に父親の遺産を相続すると見なされて、原則として限定承認や相続放棄ができなくなってしまいます。

これは、父親の財産全てに言えます。
借金の返済のため、自宅にある父親の家財を勝手に売ってはいけません。すれば単純承認となってしまい、限定承認だけでなく、相続放棄もできなくなってしまいます。

もちろん、限定承認ができるかできないか、判断するのは家庭裁判所ですので、実務的には、お葬式費用くらいでは、単純承認したとみなされない。そのような場合もあるとお聞きしております。

(2)申請できる期間が決まっている

限定承認や相続放棄は、必要書類(財産目録や戸籍等)を揃えて、家庭裁判所に申請する必要があります。
この申請手続きの期限が決まっています。
それは、「相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内」です。

原則として、これ以降の申請は認められていません。ただし、実務的には、借金が一切無いと思い込んでいた場合といったような一定の場合には、家庭裁判所の判断次第で認められることもあるようです。
また、事前に申請しておけば、限定承認をするかしないか、判断期限を延長できる場合があります。

このあたりは、相続問題にお詳しい弁護士先生や司法書士先生にお聞きするとよいでしょう。

(3)相続人全員で申請しなければならない

相続放棄は、何人か相続人がいても、単独(1人だけ)で申請できます。
ですから、財産がいらない、相続問題に巻き込まれたくない、借金が多そう、といった場合は、1人だけでも相続放棄を申請できます。

ですが、限定承認は相続人全員で申請しなければなりません。
ですので、相続人全員で良く話し合って、期限内に申請するかどうか、決める必要があります。

(4)財産は原則として競売に出されてしまう

亡くなった父親の財産は原則として全て換金され、借金の返済に充てられます。
ただし、自宅といった、どうしても手放したくない財産があれば、家庭裁判所が決めた鑑定人が算定した金額を債権者に返済すれば、換価されずに済みます。

(5)余計な税金がかかる可能性がある

限定承認の一番の問題点が税金です。
具体的には、「みなし譲渡課税」と「準確定申告」です。順番にご説明していきましょう。

「みなし譲渡課税」

お亡くなりになった方の財産の中に、土地がある場合は要注意です。
限定承認をすると税務署は、
「この土地を(実際に売却してなくても)いったん売却したと考えます。なので、その売却益に税金をかけます」
と言うのです。

これを「みなし譲渡課税」といいます。
例えば、先祖代々の土地があり、時価が1億円だとしましょう。
先祖代々の土地ですと、これに約2割の税金(約2千万円)の税金がかかってしまいます。

普通、自宅を売却した場合は、居住用財産の特例(3,000万円控除や軽減税率)が使える可能性がありますが、このみなし譲渡課税では、原則として使うことができません。
この意味からも税金的に不利な制度でしょう。

「準確定申告」

お亡くなりになった方に収入があった場合、お亡くなりになった日から原則4ヶ月以内に確定申告をして税金を納める必要があります。
これ「準確定申告(じゅんかくていしんこく)」といいます。

限定承認をしても、この期限は伸びません。遅れますと罰金がかかってしまいます。
また、これは専門家のなかでも意見が分かれますが、準確定申告はお亡くなりになった方の税金を計算する訳ですから、これをしてしまいますと、財産を処分したとみなされて限定承認が認められない可能性もでてくるかもしれません。
準確定申告をしたくてもできない。そのような可能性もでてきます。
また、限定承認をするかしないかの判断期限を延長できると説明しましたが、延長期限中も準確定申告の期限は4ヶ月以内で変わりません。
ですので、こちらの問題もでてきてしまいます。

なお、限定承認するような方は、相続税の心配はあまりないかもしれません。
というのも、相続税は財産と借金を比較して、財産が多い場合にかかる税金ですので、限定承認するような方は、財産が超過していない可能性が大きいからです。

 

限定承認を検討する場合とは?

限定承認をしたことのある弁護士先生のお話をお聞きしたところ、
「言いにくいのですが、自殺した場合に限定承認を検討することが多いんですよ」
とのことでした。

自殺の原因は色々あると思いますが、借金を苦にしてご自分で命を絶たれた場合、財産よりも借金の方が多いと予想されますので、残された遺族は限定承認や相続放棄を検討する必要があるかもしれません。
(ただ、その場合は税金の問題にも気を配ってください)

 

限定承認にならないよう、事前の対策が必要です

今までのご説明のとおり、限定承認は色々と問題があり、使いづらい制度です。
ですので、年間1,000件程度しか申請されていないんですね。

そのため、借金がある方に相続が起きそうな場合は、事前にきちんと対策をしておく必要があります。

対策といっても、特別なことをする必要はありません。次のことにご注意頂ければと思います。

  • 財産目録を作り財産と借金をきちんと把握しておく
  • (お亡くなりになるかもしれない方と)こまめに意思疎通する

一番良くないのが、疎遠となっていた身内が一人で亡くなる、といったケースです。
この場合は、借金があるかどうか分かりませんから、遺された遺族としても困ります。
ですので、年に1回くらいは会って、お互いを知り合うことが大切です。

実際に、私もある方から相談されたことがあります。
「東北の大震災で独り身の身内が亡くなったが、どうやら借金がありそうなんです。どうすれば良いですか?」
(この場合は、何とか解決したようですが・・・)

また、私自身の実務でも、限定承認するかしないかを検討したことがあります。
それは、多数の土地をお持ちの方の相続です。
土地と同じくらい、多くの銀行借入金があったので、限定承認を検討しました。
ですが、事前に財産と借入金、それに土地からあがる収支も検討していましたので、何とか限定承認せず、普通の相続手続き(単純承認)をすることができました。

 

相続とひとくちにいっても、法律的な手続き、税金の手続きといったように多くのお手続きがあります。
色々と難しいですね。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。