相続税の勘違い(3)「会社へ貸したお金が戻ってこない。でも相続税が・・・」(社長貸付金について)

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

中央区日本橋の相続税理士、石橋です。

相続税の計算をしておりますと、色々な場面に出くわします。
そのなかに、「なんで生前、きちんとした会計処理をしていなかったんだろう?」
と、前の税理士先生の処理に疑問が出てくる場合があります。

その代表例として、「社長が会社へ貸し付けているお金(いわゆる社長貸付金)」があります。
貸付金について何を注意すべきか、生前に何をしておくべきかについて、簡単にご説明していきましょう。

会社へお金を貸した場合は、どのような財産になるのか?

たとえばのお話しです。
ある会社が、中央区日本橋にあったとしましょう。
この中央区日本橋にある会社の業績が思わしくない。商品も売れず、人件費ばかりかさんでしまう。そして資金繰りがどんどん苦しくなってくる・・・。

そのため、社長が中央日本橋銀行(仮名)から1億円をおろしてきて、会社に貸し付けた・・・。
具体的には、次のとおりです。

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この場合、社長の財産のは次の通りとなります。

「預貯金1億円→貸付金1億円」

要するに、預貯金1億円が会社への貸付金1億円に変わっただけですので、財産の総額自体は変わりません。

これに対して、会社は1億円の借金をした訳ですから、次のようになります。

「+預貯金1億円-借入金=差引0円」

つまり、プラスとマイナスの両方がたつため、こちらも財産の総額自体は増えません。

 

ですが、このような会社の多くは業績が回復せず、借りたお金をそのまま使ってしまう場合があります。
そのような場合は、

  • 社長には、会社への貸付金1億円
  • 会社には、借入金1億円

という状態になると思います。
この、「貸付金1億円」をお持ちになったまま、社長がお亡くなりになりますと、貸付金1億円に対して相続税がかかることになります。
これについて、考えてみたいと思います。

 

貸付金の評価は、どうやってするのか?

会社への貸付金1億円に相続税がかかる訳ですが、この貸付金の価値は、どうやって計算するのでしょうか?
「財産評価基本通達(相続税を計算するルール集)」に、つぎのように決められています。

財産評価基本通達-204(貸付金債権の評価)

要するに、貸付金は、
「貸しているお金の金額+未回収の利息」
で評価しなさい、と言っているんですね。

例えば、友人に100万円貸していて、利息として年12%とっており、利息は年末後払いである。そして、貸している方が10月末で亡くなった。その場合は、次で計算します。
「100万円+100万円×12%×10月/12月=110万円」
つまり、貸している金額の元本と、まだもらっていない利息とを合算して、相続財産に計上します。

これは、社長が、自分の会社に貸しているお金(貸付金)でも同じ事が言えます。
社長が会社にお金を貸した場合は、普通は利息をとらないでしょうから、

「貸付金1億円」

となるので、社長がお亡くなりになった場合は、1億円が相続財産として、これに相続税がかかります。

この貸付金1億円。会社の業績が回復して、きちんと返済されれば良いのですが、現実にはそのようにならないことが多いです。
そのような、返ってこない(であろう)貸付金について、考えてみましょう

 

返ってくる見込みがない貸付金の評価は?

返ってくる見込みのない貸付金について、相続税はかかるのでしょうか?
税務署は、次のように決めています。

財産評価基本通達-205(貸付金債権等の元本価額の範囲)

ここに長々と書いてありますが、要するに、返ってくる見込みがないことが「確実」であれば、相続税の対象としない(相続財産に計上しない)という事を言っています。

例えば、このなかに、「特別清算の開始命令があったとき」とあります。
会社の特別清算とは、会社が債務超過でどうにもならなくなって、債権者から債権切り捨ての合意が得られそうなとき、裁判所の監督の下、会社を粛々と解散させることを言います。
特別清算をするときは、裁判所が「特別清算の開始命令」を出します。
この命令が出ると言うことは、
「会社が債務超過であり、債権者にお金を全額返せる見込みがない」
ということを、裁判所が認めた、いわば裁判所のお墨付きがでた、と言うことです。
ですから、このような命令が出ている会社に貸したお金(貸付金)は、原則として相続税がかからないことになります。
(もちろん、戻ってくる金額があれば、その分は相続財産となります)

また、「業況不振のため(省略)その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき」ということも書かれています。
要するに、お店を完全に閉めて、売上が一切無い状態で半年経過している場合であれば、返ってくる見込みのない貸付金について相続税をかけない、ということを言っています。
(しかし、こちらは特別清算よりも若干ハードルが高くなります)

では、質問です。
事業を継続している会社だが、返ってくる見込みがほとんどない。
そのような貸付金は、どうやって評価すれば良いのでしょうか?

 

返ってくる見込みがほとんどなくても相続税がかかってしまう!

事業を継続していて、特別清算といった法律手続きが開始していない場合はどうなるか?
その場合は、上記の財産評価基本通達-205(貸付金債権等の元本価額の範囲)に、原則として該当しないことになります。
そうすると、会社へ貸した貸付金1億円については、相続税がかかります。

財産が多額にある方は、相続税の最高税率が55%(平成28年現在)ですから、
「1億円×55%=5,500万円」
として、(戻ってくる見込みのない)貸付金1億円に対して、最高5,500万円の相続税がかかる可能性があるわけです。

このような、返ってくる見込みのない貸付金といった財産に相続税がかかる・・・・。
一見、理不尽なようですが、仕方ありません。

税務署の理屈はこうです。
「今は返ってくる見込みが殆どないかもしれない。でも、何かヒット商品を出して、会社の業績が奇跡的に回復するかもしれない。だから、会社から返ってくる見込みが全くないとは言えない。」
言われてみれば、そのとおりなんですが・・・。なんだか納得できませんね・・。

これについては、国税不服審判所の有名な裁決例があります。
(非公開なので、国税不服審判所のホームページでは見ることはできませんが・・・)
それらを調べますと、多くの場合、税務署の主張の方が勝っています。つまり、
「少しでも返ってくる可能性があれば、相続税の対象となる」
ということです。

ですから、返ってくる見込みのない貸付金があるのであれば、事前に対策が必要になります。
では、どんな対策が必要なんでしょうか?

 

対策は大きく分けて3つある!

会社にお金を貸している場合で、社長様がお亡くなりになったら、原則としてその貸付金に相続税がかかる。
これはご理解頂けたかと思います。

このように、返ってくる見込みのない貸付金を何とかしませんと、価値のない財産に相続税がかかってしまいますから、困ってしまいますよね。
ですから、何らかの方法で、貸付金を「消す」必要があります。
これには、大きく分けて3つの方法があります。これらをご説明していきましょう。
(他にも方法はありますが、ここでは利用しやすい方法をご説明しています)

(1)債権放棄(債務免除)をする

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まず、社長が会社宛に「債権放棄通知書」を作成します。
文面は「御社に**月**日現在貸しているお金は**円ですが、このうち1億円を放棄します」というようにします。
(文面は市販の書籍を参考にしてみてください)
これを会社宛に送るのです。
そうすると、社長が会社に貸しているお金(貸付金1億円)は、なくなりますので、返ってくる見込みのない貸付金に相続税がかかる、ということは回避できます。

では、会社はどのような処理になるのでしょうか?
会社は、借金を免除してもらったのですから、借入金1億円がなくなります。
本来返すべきお金を返さなくても良くなったのですから、会社は1億円の利益を得たことになります。
この1億円に法人税がかかってしまいます。これを「債務免除益」といいます。

ですから、債権放棄をする際は、必ず事前に、会社に欠損金(繰り越し赤字)があるか、確認してください。
この欠損金があれば、その金額まで債権放棄しても、利益と赤字を相殺できますので、会社は余計な税金を払わなくて済みます。

また、もう一つ注意点があります。
それは、「みなし贈与」に気をつける、ということです。

みなし贈与とは、簡単に言いますと、
「お金といった現物の財産はもらっていないが、間接的に利益をもらった」
ということになります。

例えば、この会社の株主が、父(社長)と子供の2人だったとしましょう。
今回のケースですと、父が会社に債権放棄しますと、会社の財務状況は改善します。改善すると、子供が持っている株式の価値は上がります。
そうすると税務署は「間接的に父から子に利益を贈与された!」と考えて、子供に贈与税がかかってしまうのです。

ですので、まとめますと、社長が会社に債権放棄する前に、

  • 会社の欠損金(繰越赤字)が十分にあるか確認する
  • 他の株主の株式価値が上がらないか確認する

以上を確認してから債権放棄するようにしましょう。

(2)会社を解散する

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社長が会社に対して債権放棄をしたい。
でも、会社の欠損金(繰越赤字)が少ないので、会社に債務免除益が出てしまい、会社に税金が発生してしまう・・・。
そんなときは、思い切って会社を解散(廃業)してしまうことも考えると良いかもしれません。

会社を解散するときには、会社は全ての債権債務を清算しなければなりません。
ようするに、全ての財産をお金に換え、全ての借金を払い、お金だけ残る状態にするのです。

このような、社長からお金を借りるような会社は、財産は残っていないでしょうから、解散手続きをすると、最後に社長からの借入金だけが残ることになります。

この場合でも、先程の説明のとおり、債務免除益という利益がでるので、原則として会社は税金を払わなければなりません。
ですが、特例があります。それは、

「会社を解散するときに社長から債権放棄を受けた場合は、原則として会社に税金をかけない」

という法律があるのです。
(具体的には、「期限切れ欠損金の特例」といいます)

ですので、会社に多額のお金を貸している社長様は、会社を解散させることも検討してみましょう。

なお、会社を解散しても事業自体は継続できます。(会社の事業を引き継いで、個人事業として継続するのです)
(これ意外にも、第二会社方式という方式により債務免除することも可能ではありますが、こちらは組織再編という難しい手続きになりますので、組織再編の専門家にお願いした方が無難です)

(3)貸付金を贈与する

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「債権放棄すると会社に利益が出てしまう」「貸付金はいつか返してもらいたいから債権放棄したくない」
そのような社長様は、貸付金をお子様たちに贈与することも可能です。

貸付金も、お金や株式と同じ普通の財産ですから、お子様たちに贈与することができます。
ですが、いくつか注意すべきポイントがあります。
詳細なご説明は省きますが、箇条書きでご説明すると、次のとおりです。

  • 贈与者と受贈者がきちんと自署押印する
  • 民法の要件を満たすために、きちんと債務者(会社)に記録が残る形で通知する
  • 決算書の「**からの借入金」の名前を書き換える
  • 返済時は公平に、きちんと子供たちにも返済する
  • 贈与税の申告書を提出し、贈与税も子供たちが払う

他にもいくつかポイントがありますので、実行前に税理士に相談するようにしてください。

お子様たちに贈与しますと、社長様の財産は減りますから、社長がお亡くなりになったときの相続税は減ります。
ですが、この方法ですと、一気に社長の貸付金を減らせません(貸付金を一気にお子様たちに移すと多額の贈与税がかかります)から、対策に時間がかかります。
ですので、実行されるのであれば、早めに対策しましょう。

 

会社決算のときは決算書を注意して見るようにしましょう!

社長が会社にいくらお金をかしているのか。それは会社の決算書に書いてあります。

普通は、社長が会社にいくら貸しているのか、貸した本人である社長ご自身が知っているはずです。
ですが、次のような場合もあります。

会社の決算時に会社の現金が帳簿上足りなくなった。そのときに税理士側で、足りない分を社長から借りた処理をする場合があるのです。
もちろん、きちんとした税理士であれば、社長からの了解を得て、そのように帳簿処理をしますし、結果を社長にきちんとご報告します。
「社長!今年の決算を終えましたが、社長が会社に貸したお金は**円残っていますよ!」と。

ですが、税理士がきちんと報告していない場合もありますし、報告していていも社長様にご理解頂けていない場合もあります。

ですので、社長様の方でも意識して、決算が終わる都度、
「自分(社長様)が会社にいくら貸しているのか?」
を、意識して確認するようにしてください。分からなければ、税理士にどんどん質問すれば良いのです。

相続税の申告は、今までの会計処理の、いわば総決算ですから、それまでに適切な会計処理をしていませんと、余計な相続税を払うことにもなってしまいます。
是非、社長様ご自身でも意識して、会社の決算書をご覧になるようにしてみてください。

 

他の税理士先生の相続税申告書を見て、貸付金のことを書きはじめてみたのですが、結構な長文となってしまいました。
貸付金ひとつとっても、色々な点に注意しなければなりませんね。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。