相続税の勘違い(2)「この財産は贈与済みです!への反論」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

中央区で税理士事務所を開業しております、税理士の石橋です。

相続税の税務申告を行う際、相続人の方々に財産目録(財産一覧)を作成してご説明することがあります。
財産目録を作成する際は、お客様から色々とお聞きして作るのですが、そのなかで良く聞かれることとして、

「この財産は(贈与が成立しているから)相続財産に含めなくて良いですよね?」

というご質問があります。

例えば、父が亡くなり、相続人が妻と子だとしましょう。
そして、父の財産を確認していたら、子供名義の財産が見つかった。そのような場合です。

誤解がとても多い箇所ですし、税務署も一番注意して見るところでもあります。
財産ごとに論点が違いますので、分けてご説明してきましょう。

 

1.預貯金について

預貯金が誰のものか(亡くなった父のものなのか、それとも子供のものなのか)を判断する際は、次がポイントになります。

(1)誰が通帳を持っていたのか?

お金の持ち主が預金通帳を持つ。これが原則です。
ですから、税務署も「この預金が誰のものか?」を判断するため、税務調査の時も、一番最初に誰が通帳を管理していたのか確認します。

例えば、「この預金は(子供である)私のものだ!」と言い張っても、通帳が父親のところにあったら、常識的に考えて、これは子供の預金ではなく父のもの、ということになるでしょう。

ただし、お子様が障害を持たれているような場合は事情が異なります。銀行までご自分で歩いて行けない、そのような事情があれば、その事情を汲んで判断することになります。

(2)そのお金は本人がいつでも使える状態にあったのか?

お金は、お金の持ち主が自由に使うことができる。考えてみれば当たり前のことです。
ですので、上記(1)とも共通しますが、お金が子供のものであると言い張るのであれば、子供がキャッシュカードを持っているでしょう。
通帳を持っていない、キャッシュカードもを持っていない、ということであれば、その預金はお亡くなりになった父のものと認定されるでしょう。

(3)そのお金はどこから来たのか?

お金は稼いだ人のものです。ですから、父が稼いできたお金は父のものですし、子供が稼いできたお金は子供のものです。
ですから、そのお金の流れからも判断する必要があります。

相続税の税務調査がある際は、税務署は事前に預貯金の流れを確認してきています。
調査官によって書式はまちまちなようですが、おおむね下記の表のような確認をしていると思われます。

日付 内容 A銀行 B銀行
(入金) (出金) (入金) (出金)
平成25年1月15日 資金移動 10,000,000     10,000,000
平成27年2月15日 株式購入       3,000,000
平成28年5月15日 ?子供名義の預金へ?       5,000,000

税務署は職権で銀行から取引内容を取り寄せることができます。
それをもとに、この表な表を作っているんですね。
(書式は若干違うかもしれませんが、このような形式になっていると思われます)

こうすれば、お金の流れは一目瞭然ですね。
父と子供、それぞれの銀行記録を取り寄せ、

  • 平成28年5月15日に子供名義の預金へ500万円の入金があった
  • 子供名義の通帳とキャッシュカードは父が持っていた
  • 子供名義の預金は、子供が自由に引き出した形跡がない

上記のようになれば、ほぼ確実に、亡くなった父の財産といえますので、相続税の計算対象に含めなければなりません。

(4)通帳の名義人は誰のものであったか?

はっきり言いまして、通帳の名義人は、その財産が誰のものであったかを判断する際、参考程度にしかなりません。

例えば、夫が事業で稼いできたお金を、妻がそのまま自分名義の預金としていた。
そして、妻は働いていないかった・・・。
そのような場合は、預金名義は妻ですが、実質は夫のものとされます。

ですので、預金名義は参考にはなりますが、それだけで判断しますと、判断を誤ることになりますので、ご注意ください。

(5)贈与税の申告は行ったのか?

「きちんと贈与税の申告をしたから、この預金は子供のものです」とおっしゃる方がいます。
ですが、贈与税の申告をして、贈与税を払ったからと言って、無条件に贈与が認められる訳ではありません。

今までのご説明のとおり、預貯金の持ち主が誰かを判断する際は、本人がいつでも自由に使えることかを重視します。
良くある失敗パターンとしては、次のようなものです。

  • 子供名義の通帳とキャッシュカードは父の手元にあった
  • 父が子供名義の通帳に数百万円移している
  • 父が自分で、子供名義の贈与税申告書を作り、贈与税も父が払った

このケースで、税務調査の時に、
「贈与税を払っているんだから、贈与が成立しているだろう!」
と税務署員に言っても、ご納得頂けないかと思います。
このような場合、贈与税が丸々払い損になってしまいますから、注意しましょう。

上記の(1)~(5)のポイントで総合的に判断することになります。
(1)だけ見ても、(5)だけ見てもいけません。あくまで総合判断です。

これらのことは、私が勝手に言っているのではありません。
多くの裁判や国税不服審判所(税務署と争ったときに裁判に行く直前の役所です)の裁決例が、その事実を物語っています。

裁判例を探すのは大変ですが、裁決例を探すのは比較的簡単です。
ご興味がある方は、国税不服審判所の「相続税法関係→相続税の課税財産の範囲」をご覧になってみると良いでしょう。

また、間違った贈与をしてしまった場合は、途中で修正する方が良い場合もあります。
例えばですが、父から子供名義の預金に移してしまったお金は、父の生前中に父の預金に戻す、といったことも考えられます。
この辺りは相続税に詳しい税理士に相談してから実行した方がよいかもしれません。
 

2.不動産について

不動産についても、預貯金と同じように考えます。
つまり、不動産の名義だけで考えない、ということが大切です。

ごくまれにあるのですが、名義は子供名義になっているのですが、不動産の登記簿謄本を見ると、その子供が幼少期に購入したことになっているんですね。
おそらく、父が不動産を購入する際、自分(父)名義では亡く、子供名義にしておいた方が相続税もかからず良いだろう、と考えたのでしょうね。

このような場合は、次のポイントを考えて、総合的に判断することが必要です。

  • 不動産の購入資金は誰が出したのか
  • 不動産の賃貸収入は誰がもらっていたのか
  • 不動産を誰が使用していたのか
  • 家族間で、不動産は誰のものと認識していたか

特に不動産の場合は金額が大きいですから、万が一、税務署から問題を指摘されますと、追加の税金も大きいものになります。
ですから、慎重に判断したいものです。

 

3.その他の財産について

預貯金や不動産以外にも、上記の考え方で判断します。
例えば、次のような財産が問題とされやすいです。

  • 上場株式
  • 生命保険金
  • 貸付金

上場株式についても、預貯金の通帳と同じように、証券会社に取引記録が残されていますので、子供名義の株式の残高が子供の収入に比べて多い場合は、税務署も記録を取り寄せて確認するでしょう。

また、生命保険金も注意が必要です。
生命保険金は誰が保険料を負担していたかで、相続税・贈与税・所得税といったように、税金の種類が変わります。
大昔に一時払いで支払った生命保険の場合は、誰が保険料を払っていたのか分からない場合も、ままございます。
このようなときも、相続人同士できちんと出資元を確認することも必要です。

 

みなさん、「税務調査に来て欲しくない」というお気持ちをお持ちだと思います。
(もちろん、私もそう思っています)

では、どうすれば税務署が来にくくなるんでしょうか?それは、
「税務署が一番関心のあるところを事前に申告書でご説明しておく」
ということです。

最初に申し上げたとおり、税務署が一番気にするのが、名義は子供だが実質的には亡くなった父のものとされる財産、いわゆる名義預金といったものです。
ですから、最初からこれらを検討し、検討結果を相続税の税務申告書に付けて提出してしまうのです。
実際、私も財産が多い方、資金移動が大きい方は、エクセルの資金移動表なり、過去の預金通帳なりを付け、税務署に提出することがございます。
(もちろん、お客様に趣旨をご説明して、ご納得いただけた場合にだけ提出します)
今までで一番提出書類が多かった案件では、太いファイルを5冊分提出したこともありました。

以前は、財産の金額が大きいと、ほぼ必ず税務調査に来ると言われていました。
ですが、私の事例で恐縮ですが、きちんと税務署にご説明する申告を心掛けたところ、世間で言われるほど税務調査に来ないと思うんですね。
(万が一、税務調査に来ても心象は良いと感じています)
書類を見れば税務署の方も分かると思うんですね。きちんと検討して申告しているのか、していないのかを。

 

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。