相続税の勘違い(1)「へそくりは誰のもの?(名義預金について)」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

中央区相続税の申告を行っております、税理士の石橋です。

相続税の税務調査があった場合、結構な割合(約8割)で、相続財産の計上漏れを指摘されます。
その計上漏れが多い財産として、金融財産、とりわけ名義預金(名義は家族のものだが実質的には被相続人の財産とされるもの)の計上漏れが多いとのことです。
その名義預金の代表例として、いわゆる「へそくり」というものが挙げられます。
これについて、ご説明していきたいと思います。

へそくりは誰のモノ?

へそくりの定義は色々あると思いますが、一般的には
「夫が妻に渡した生活費のうち、妻が節約して残ったお金」
と言えるかと思います。
(もちろん、妻の生活費を夫が貯めた、という逆の場合もあるかと思いますが)

次の図をご覧ください。

 

名義預金(2).png

次の前提があったとします。

  • 夫は会社員
  • 妻は専業主婦
  • 妻は学校を卒業してすぐに結婚。今まで外で働いたことはない。

夫は妻に、
「この800万円をキミに預ける。ここから生活費を切り盛りしてね」
と伝え、800万円を妻に渡しました。

妻は頑張って生活費を切り詰めました。
スーパーの特売チラシをチェックし、電気もこまめに消灯して、水道光熱費も節約しました。
その結果、100万円が、妻の手元に残りました。

では、質問です。
この100万円は、誰の財産ですか?

答えは、「夫の財産」です。

世の奥様方から、一斉にブーイングを浴びそうですが、相続税を計算する際は、この100万円は夫の財産と考えるんです。

相続税を計算する際は、「そのお金の原資は誰なのか?どこから来たのか?」ということを、とても重視します。
この100万円は、夫がお勤めして稼いできた1,000万円のうちの100万円ですよね。ですから、夫の財産と考える訳です。

税務署もそのように考えています。

国税不服審判所という役所があります。
税務調査があり、その結果に納得出来ない方が、ここで再度判断してもらう。そのような役所です。

ここに持ち込まれた内容は、公開されているもの、公開されていないもの、両方ありますが、今回ご説明しているような典型的なへそくりは、その殆どが夫の財産であると認定されています。
預金の名義が妻になっていても、そんなのは関係ありません。この100万円はどこから来たのか。それを重視して考えるんですね。
(預金の名義人だけで判断するのであれば、簡単に相続税を回避することができてしまいますので・・・)

なお、夫が家計へ繰り入れた後に残った、夫名義の預金300万円は、当然、夫の財産となります。

 

夫と妻の両方に収入がある場合は?

では、次の場合は、どうでしょうか?

名義預金(3).png

最近は夫婦共働きの世帯も増えています。このように、夫と妻の両方が家計に支出していることもあるでしょう。
その場合、この残った100万円は誰の財産になるのでしょうか?これには次の考え方があります。

  1. 全部妻の財産と考える
  2. 家計に入れた割合(500万:200万)で按分する
  3. それぞれの収入(800万:600万)で按分する

それぞれご説明していきましょう。

(1)全部を妻の財産と考える

この残った100万円全てを妻の財産とする考え方もあるでしょう。
ですが、両方が家計費を負担しているような場合(今回のケースの場合)は、この考え方には無理があるかと思いますので、この100万円を何らかの基準で按分する必要があると思われます。

(2)家計に入れた割合(500万:200万)で按分する

残った100万円を、家計に入れた割合で按分して計算する方法です。
例えば、夫の財産は次のようになります。

100万×(500万÷700万)=約71万円

71万円を夫の財産、29万円を妻の財産と考える方法です。
この方法は、家計の負担割合で計算するため、一定の合理性があると思います。

(3)それぞれの収入(800万:600万)で按分する

夫の収入と、妻の収入との割合で負担する方法です。
この方法は一見合理的に見えるのですが、問題があります。
それは、「家計費の負担割合は一概に収入の比率で負担しているとは言えない」
ということです。

夫婦間で生活費をどう負担するのか。それは家庭ごとによって異なると思います。
多くの場合は、夫が多めに負担しているのでしょうが、まれに妻が多く負担している場合もあるかと思います。
負担割合は家庭ごとによって違いますから、一概に何割と言えないと思います。

たまに、税務署の方から
「この100万円は夫婦の収入の比率(800万:600万)で按分すべきではないか?」
「生活費は折半すべきなので、2分の1ずつで計算するべきでは?」
とのご指摘を頂く事があります。

ですが、生活費を収入割合で負担すべき、という法律もありませんし、それこそ夫婦間の力関係(泣)で決まってくるものだと思いますから、このご指摘は的を得ていないような気もします。

妻の収入状況に比べて、明らかに妻の財産が多い場合は、上記3つの方法や、その他の事情を総合的に検討し、妻の財産が誰の財産になるのか、慎重に検討して相続税の申告をする必要があります。
そして、疑わしい部分は、最初から税務署に説明してしまうのです。
具体的には、次のポイントを検討して、文章で検討結果を相続税申告書に添付してしまうのです。

  • 夫と妻の過去の収入状況(給料・年金・退職金・株式運用等)
  • 妻が現在持っているべき財産の残額(合理的な計算によるもの)
  • 夫の実家や妻の実家からの相続財産はあるか

税務署が一番知りたいことを、最初から説明しておけば、お互いにとって良い結果となることが多いです。税務署の心象も良くなるでしょう。
他の税理士先生が作られた相続税申告書を多く見てきましたが、この検討資料をつけていらっしゃらない税理士先生がとても多いです。
(もちろん、意図的につけない場合もあるんですが)
その結果、税務調査に来られたら、双方にとって手間ですよね。ですから、相続税の申告書には、色々なご説明資料を付けた方がよい、と個人的には思っております。

 

へそくりが多すぎた場合はどうなるか?

妻に収入がないのに、妻名義の資産が多額にある。このような場合は次のケースが多いです。

  • 夫から渡された生活費の残りを妻名義の預金とした(へそくり)
  • 自分で資産運用して増やした(株式投資・宝くじの当選等)
  • 妻が実家の財産を相続した
  • 結婚時の持参金が多額であった

夫が先に亡くなり、妻の資産が多額にある場合は、相続税の税務調査に来る可能性が高い。
個人的にはそう思っています。

以前、ご主人がお亡くなりになり、相続人は奥様とお子様二人、という相続税申告についての税務調査がありました。
このケースでも、奥様の資産が多くありすぎる(約1億円)のが問題とされました。

午前中は和やかなムードだったんですが、午後から急に厳しくなりました。
税務署員は「奥様は今まで働かれたことはないのに、なんでこんなに資産をお持ちなんですか?」
との質問をしてきました。(まあ、予想通りの質問なんですが・・・)

税務署も調査に来る前に、色々調べています。
奥様の過去の年収資料、銀行から取り寄せた通帳写し等々・・・。

相続税の申告書を提出する前に、私は奥様へ、へそくりの考え方(奥様名義の預金は実質的にご主人の財産ではないのか?)について、きちんとご説明していました。
ですが、奥様は「私名義の財産は私のものです!」と、厳しくおっしゃいました。
そのお考えは分かります。
私もこの仕事をしていなければ、「この税理士さん、何を言っているんだろう?」と思うでしょうから。

そのため、税務署の方からも、当然そのように指摘されるだろうな、と思いましたし、事実、そのような質問がきました。

ですので、私は正直に、次のようにご説明しました。
「奥様の財産の原資(どうやって財産を手に入れられたのか)分かりません。ですが、こちらの奥様は名家のご出身でいらっしゃるので、結婚時の持参金はとても多かったでしょう。また、数十年前にある程度の資産を相続したかもしれません。それが戦後の高度経済成長で順調に増えたのではないですか?」

事実、大昔の預金通帳はとってありませんから、このような推測でしかご説明できないんですね。
税務署の方も困ってしまいましたが・・・。
この結果ですが、守秘義務の関係で詳細にはご説明できません。
ですが、税務署の方も、相続人の方も、双方が納得される結論になったことをお知らせしておきます・・・。
 

へそくりだけを考えても、色々な問題がでてきます。
相続税を考える際は、法律の知識も大切ですが、税務署の方がどのように考えているかを知ることも大切です。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。