間違えやすい相続税の土地評価(7)「セットバックと都市計画道路を勘違い?」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

東京都中央区相続税理士、石橋です。

最近、お客様から「土地をセットバックするって、どういう意味ですか?」というご質問を頂いたので、簡単にご説明していきたいと思います。

セットバックとは?

土地の上に建物を建てる際、前の道路は、きちんとした幅が必要です。
というのも、道路の幅が狭ければ、車が行き来できませんし、万が一、火災があったとき、消防車も入ってこれないからです。

ですから、建物を建てる際には、建築基準法42条で
「建物を建てる際は、その土地の前の道路の幅が、原則として4メートルなければダメ!」
と決められています。
イメージすると、次のような図になります。

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道路の中心(中心線)を決めて、そこから2メートルずつ、合計で4メートルの道路を確保しないさい、と決められています。
(原則4メートルですので、地域によっては6メートルだったり、4メートル未満だったりします)
詳しくは、その土地がある地域の役所(区役所・市役所の建築基準課等)に行って、教えてもらうことになります。

ところで、次のような土地も、結構見かけませんか?

 

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緑の土地の前の道路は、きちんと4メートル(2M+2M=4M)確保できています。
ですが、赤の土地の前の道路は、まだ狭いままです。

この赤い土地は、違法建築ではありません。
建築基準法が施行されたのが約50年前です。その時から「道路の幅を原則として4メートル確保しよう」となったわけです。
ですから、その時に、既に建っていた建物については、そのまま認めることにしたんです。
そして、次に建て替えるときに、きちんと4メートル分の道路を確保しなさい、となったんですね。

ですから、この赤い土地の建物を建て替える際は、緑の土地のように、少し土地を後退させて、道路にしなければなりません。
土地が少し減ってしまいますが、仕方ないんですね。法律で決まっていますから・・・。

この赤い土地は、将来(といっても何十年後か分かりませんが)の建て替えの際は、土地が少なくなってしまいますよね。
ですから、税務署も、このような土地は、少し価値が下がるから、道路にする分だけ土地の評価を下げましょう、としててくれたのです。
これを「セットバック」や「セットバックの評価減」と言います。
 

都市計画道路とは?

上記の通り、セットバックを要する土地は、建て替えの際は、少し土地を後退させなければなりません。

ところで、これと似たような考え方があります。都市計画道路です。
都市計画道路とは、簡単にいいますと、道路の幅を広くする計画のことをいいます。

都心で、主要道路の拡幅工事をしていること、ありませんか?
あれは、多くの場合、都市計画に基づいて、道路を計画的に広くしているんですね。

多くの区役所や市役所で、次のような都市計画図を公開しています。
これをみれば、どの計画(第**号計画)に基づいて道路を拡幅しているのか分かります。

 

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ですが、役所が都市計画道路の計画を立てて、道路を拡幅しようとしてしても、すんなりと工事は進みません。
用地買収が必要ですし、道路上の建物は取り壊してもらう必要があるからです。
計画段階では10年で終わる、となっていても、実際の工事完了までは30年以上かかることも、ざらにあります。

このような道路沿いに土地をお持ちの方は、将来、道路に提供しなければなりません。
買収なので、お金は入ってきますが、それでも将来土地が削られてしまうわけですから、土地の価値は若干下がりますよね。

税務署は、このことを考えて、土地の評価を少し下げましょう、と決めてくれたのです。
これを「都市計画道路」または「都市計画道路の評価減」といいます。

 

セットバックと都市計画道路とを勘違いした申告書

数年前のお話しです。
新しく確定申告のご依頼を頂いたお客様がいらっしゃるのですが、ご依頼頂く際に、過去の相続税申告書も拝見させて頂きました。

相続財産のなかに、国道沿いの土地がありました。その相続税の申告を担当された税理士先生は、その土地を「セットバック」として申告されていらっしゃいました。

ですが、申告書を見て「おかしいな」と思いました。
その土地の近くには私も何回か行ったことがありましたし、土地の前の道路は相当広く、セットバックなんて必要ないはずだからです。
(中央区ではなかったのですが、その周辺の区でした)

申告書をよく見て納得しました。その相続税申告を担当されていらっしゃった税理士先生は、「セットバック」と「都市計画道路」を勘違いされていらっしゃったのです。

セットバックも都市計画道路も、土地を道路として提供して、少し後退しなければならない。その意味では同じです。
ですが、評価方法は全然違います。

都市計画道路をセットバックと勘違いして評価してしまうと、評価が下がりすぎてしまうことが多いんですね。(逆に評価が上がってしまう場合もありますが)
このケースでは、計算しなおしてみたところ、あまり税額も変わりませんでしたので、事なきを得ましたが・・・。

なぜ、このような事がおきてしまうのでしょうか?

それは、相続税の計算、とりわけ土地の計算が難しすぎるからなんですね。

税理士は基本的に会社の税務申告や、個人の確定申告の勉強をします。
ですが、相続税は、建築基準法、都市計画法、借地借家法といった、他の法律の基本的な部分まで勉強しなければならないのです。

以前であれば、相続税で土地の計算を多少間違えても、お客様からはあまり問題を指摘されることは少なかったはずです。
ですが、インターネットでこれだけ情報が発信されますと、お客様に間違いを指摘されてしまうかもしれません。
税理士にも相当な勉強量が必要とされる時代がやってきました。

私の経験上、土地の計算が多少間違っていても、次の場合を除いて、そんなに大きく税額は変わりません。

  • 土地の数、面積、金額がとても多い
    (塵も積もれば山となるで、少しの差がとても大きくなってしまう)
  • 広大地の適用忘れ
    (広大地だと土地が約半額になってしまう)
  • 小規模宅地の検討忘れ、検討間違い
    (特に特定居住用の8割減は大きい)

税務署は、土地を高く計算して申告しても、
「先生、土地が高すぎますよ」
とは、行ってくれないんですね・・・。

ただ、私の知り合いの税理士先生(大手の税理士事務所に勤務されている方)は、税務署から
「**先生。土地を高く計算しすぎですよ。お客様の事をきちんと考えているんですか?」
と、ご指導を頂けたことがあったようです。税務署の中にも、親切な方はいらっしゃるんですね!
(もちろん、このようなご指摘を受けないよう、きちんと調べてから申告すべきなんですが・・・)

大手の税理士事務所であってもミスをしてしまう。
土地の計算というのは、つくづく難しいと思います。

 

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。