特定遺贈か、包括遺贈か、それが問題だ。

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

中央区の相続税理士、石橋です。

今回は、遺言書について、実体験を交えてご説明したいと思います。
(守秘義務の関係で、事実関係を若干変更しています)

遺言書の中身とは?

遺言書には大きく分けて2種類あります。
自筆遺言書と公正証書遺言です。

※遺言書の説明は「遺言書について」のページをご覧ください。

公正証書遺言は、だいたい、次のような文章から始まります。
(実際の公正証書遺言はタテ書きとなっています)


平成27年第9999号

遺言公正証書

本職は、遺言者***の嘱託により証人**、証人**の立ち会いのもと、・・・・・

(省略)

1.遺言者**の預貯金を**に相続させる(遺贈する)

2.遺言者**の不動産を**に相続させる(遺贈する)


ここでご注目頂きたいのが、「**の財産を**に相続させる(遺贈する)」という表現のところです。
ここの表現には、次のような「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。
特定遺贈になるか、包括遺贈になるかによって、相続税が変わってくることがありますので、これについて解説していきます。

 

特定遺贈とは?

特定遺贈とは、特定の財産を特定の人にあげる、という遺言書です。

「父は**銀行の普通預金を長男に相続させる」

このような文章ですと、「誰に」「何を」あげるかが、はっきりと分かります。
ですから、特定遺贈と分かりますね。

包括遺贈とは?

包括遺贈とは、財産を割合であげる、といった遺言書です。

「全財産の3分の2を妻に、3分の2を長男に相続させる」

このように、財産を割合であげる遺言書を包括遺贈といいます。
このような遺言書の場合は、どの財産を誰がもらうか分かりませんから、この割合を参考にして、二人で遺産分割協議をして、誰が何をもらうか決めることになります。

 

特定遺贈か包括遺贈かで相続税が変わる場合がある

特定遺贈か包括遺贈かで相続税がかわる。
初耳の方もいらっしゃるかと思います。
主な注意点は次のとおりです。

(1)包括遺贈とされた場合は遺産分割ができる

包括遺贈では、相続人以外の方(包括受遺者)も相続人とみなして、遺産分割をすることになっています。
ですから、相続人と包括受遺者とで話し合いをして、自由な遺産分割をすることができます。

これに対して、特定遺贈の場合、受遺者(相続人以外の他人)は、その財産をもらう権利しか持っていません。
ですから、「遺言書で指定されているA財産じゃなくて、B財産をもらう」とした場合、問題があります。
その場合は、いったん相続人が財産をもらい、その財産を他人である受遺者に贈与したとして、相続税と贈与税の両方の税金がかかる可能性があります。

(2)債務控除

相続税を計算する際、財産から債務(借金や未払金)を引くことができます。
財産をもらう方が相続人であれば債務控除ができるのですが、相続人でない方が特定遺贈で債務を引き継ぐ場合は、原則として債務控除できません。
(ですが負担付遺贈と判断された場合は財産から直接債務控除ができます)

 

問題のある遺言書とは?

相続税の実務に携わってから十数年が経ちます。
そのなかで、色々な遺言書を見てきました。

公正証書遺言は、主に弁護士先生、司法書士先生、行政書士先生がお作りになることが多いのですが、税金についてあまり考えてくださらないんですね。以前、このような遺言書が数件ありました。


遺言書

(省略)

遺言執行者(弁護士先生等)は、遺言者の預貯金や株式その他の財産を全て換金し、そこから債務や未払金を支払い、その残金を相続人Aに2分の1、受遺者(他人)に2分の1支払うことにする。


※遺言書には、普通は「遺言執行者」を決めます。
というのも、遺言書で「誰に何を渡すか」を決めても、実行されなければ絵に描いた餅になります。
ですから、遺言書の中身を具体的に実行してくれる、遺言執行者を決めておくのです。
(遺言執行者は、主に財産の名義変更をお手伝いすることになります)

この遺言書の形式は「清算型遺贈」と呼ばれるものです。
要するに、全財産をお金に清算してしまって、それを分けようというものです。

では、質問です。
この遺言書は「特定遺贈」でしょうか?
それとも「包括遺贈」でしょうか?

特定遺贈であった場合は、この遺言通りに財産をもらわないと贈与税がかかるかもしれません。
(遺産分割してしまいますと、いったん相続人がもらい、それを受遺者に贈与したとされるかもしれません)

包括遺贈であった場合は、相続人と受遺者(他人)とで、遺産分割協議をしなければなりません。
仲が良ければいいんですが、悪いと話しが進みません。

そのため、特定遺贈か包括遺贈か、きちんと判断することが大切なんですね。

この質問の答えですが・・・・「特定遺贈と判断することが多いと思う」です。
(あくまで個人的な意見です。お気をつけください)

過去の判例では、特定遺贈か包括遺贈か迷ったら、遺言者(亡くなった方)の意思を汲んで考えなさい、ということになっています。
ですが、こちらもイタコではありませんので(笑)、亡くなった方のお気持ちなんて分かりません。
そうすると、特定遺贈だったのか、包括遺贈だったのか、確認できませんよね。

このような法律判断は弁護士先生のお仕事になるんでしょうが、その弁護士先生が書かれた書籍(第一東京弁護士会「遺言執行の法律と実務」)が参考になります。
ここには、一定の財産の後に、その余の遺産全部というように、ある程度包括して特定しても特定遺贈と解さる、と書いてあります。
(もちろん、この書籍はあくまで参考であり、他にも色々な考え方、学説があるんでしょうが・・・)

相続問題に当たられている弁護士先生の多くは、この書籍に目を通しているはずです、
ですから、実務的には、迷ったら特定遺贈としている場合が多いと思うんですね。

ですが、遺言書に「包括して遺贈する」とったように、「包括」という言葉が出てきたら、原則として包括遺贈と考えることになっています。

このあたりは、慎重な法律判断が必要です。
迷われたら、相続人や受遺者、そして弁護士先生を交えて相談してみてください。

このような問題を起こさないために、遺言書は特定遺贈か包括遺贈か、きちんと分かる遺言書にしましょう!

 

遺言書を作るときは税理士にも相談しましょう

今回は特定遺贈と包括遺贈に注目して説明しました。

ですが、これ以外にも、遺言書と税金は、さまざまな部分で密接に関わっています。

遺言書を作る際、弁護士先生や司法書士先生が、税金までお考え頂けていれば良いのですが、それは難しいです。
(税理士も、ここまで知っている方はほとんどいません。悩ましい相続実務を経験しないと、問題に気づきませんので・・・)

ですから、遺言書を作る際は、弁護士先生や司法書士先生だけでなく、税理士にも必ず相談することをお勧めしています。

遺言書は、一度つくったら、基本的には変更しません。
大切な遺言書です。税金まできちんと考えて作りましょう。
(文中の記事は個人的見解です。最終的な判断はご自身でお願い致します)

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。