相続の思い出(3)「物納で国税局担当者様へ必死のご説明」

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税理士 石橋將年(いしばしまさとし)

東京都中央区日本橋で開業している、税理士の石橋です。

色々なお客様や、知り合いの税理士先生から、相続や相続税で、どのような問題があって、どのように解決したのか?
その実体験を書いて欲しいとのご要望がありましたので、守秘義務に違反しない範囲で、書いてみようかと思います。

相続税の物納では国税局との打ち合わせが必要!

物納(ぶつのう)という言葉があります。

これは、その名の通り、「税金をモノで納める」ということです。

税金はお金で払うのが大原則です。
事実、所得税(個人の儲けにかかる税金)や、法人税(会社の儲けにかかる税金)といった税金は、お金で納付するしかありません。
ですが、相続税は例外的に、物納が認められているんです。

この物納ですが、実行する場合は、ほぼ必ず国税局担当者との打ち合わせが必要になります。
その理由について、いくつかご説明していきたいと思います。

なお、以前は、物納は原則として税務署が担当することになっていました。
東京都の場合、東京上野税務署と練馬東税務署がその物納担当だったそうです。
そして、相続税が5,000万円以上または申請土地数が10点以上といったように大型案件の場合は、国税局が担当することになっていたんですね。

ですが、平成27年頃に取扱いが変わり、現在は、物納書類自体は税務署に提出するのですが、担当は最初から国税局になるそうです。
ですので、これから物納される方は、国税局から電話がくることになります。
お気をつけください。

(1)金銭納付を困難とする理由書の内容を説明するため

物納は誰でもできる訳ではありません。
考え方を説明すると、つぎのようになります。

「相続したお金で払えない」
    ↓
「相続人固有のお金でも払えない」
    ↓
「20年の延納(相続税の分割払い)でも払えない」

この3つの要件に照らし合わせてみて、なお、お金で払えない金額だけが物納を認めてもらえるんです。
どうですか?難しいでしょう(^_^)

お金で払えない証明書は、「金銭納付を困難とする理由書」といいます。
イメージは次のとおりです。

金銭納付を困難とする理由書(1).PNG

この書類を、相続税の申告書と一緒に提出します。
すると、ほとんどの場合、数週間後に、国税局の物納担当者から税理士宛に電話がかかってきます。

「石橋先生~。この金銭納付困難理由書について、お伺いしたい点がありますので、こちらにご足労頂けませんか?」

といったようにです。

国税局に行くと、担当者(1人または2人)が、打ち合わせブースで待っています。
そこで、まずは雑談をし、それから中身のご説明をすることになります。

この金銭納付困難理由書ですが、きちんと法律や通達に基づいて作られています。
ですが、ところどころ曖昧または判断に迷うところがあります。
例えば、つぎの部分です。

金銭納付を困難とする理由書(2).PNG

ここに、「申請者の生活費は月10万円」という欄があります。どんな意味なんでしょうか?
実は、税務署はこのように考えているんです。
「毎月の生活費は10万円だけ認めてあげます。それ以外は相続税の支払い(延納)に充てなさい。それでも払いきれない部分だけ、物納を認めてあげますよ!」

税務署は厳しいですね・・・。

この10万円という基準は、生活保護の法律等を参考にして決められた金額だそうです。
ですが、田舎で自給自足の生活をしているなら、いざしらず、都会で住んでいると、とても月10万円では足りませんよね。

そこで、物納税理士の一工夫が必要になります。
具体的には、書面で色々とご説明を尽くすんです。

 実際の内容については、後でご説明します。

この内容について、色々と聞かれるので、自分のなかで想定問答集を作っておくべきでしょう。
そして、金銭納付を困難とする理由書の内容について、国税局担当者様に認めて頂けたら、つぎの段階である現地調査に進むことになります。

(2)現地調査の立会のため

23a98d0398262f6fbdacf6a7974f7f0b_s.jpgごく希にですが、金銭納付困難理由書の内容について、国税局からお呼び出しがかからない方もいるそうです。
ですが、現地調査の際は、必ず国税局担当者様とお会いすることになります。

物納する財産は、ほとんどの場合、土地・建物といった不動産になります。
この不動産について、
「きちんとした測量が出来ているか?お隣と境界でもめていないか?」

これらを確認するため、国税局担当者様と、財務局担当者様とが、現地を見にくるんです。
これを、「現地調査」と呼ぶんですね。

現場には、つぎのような方々が集まります。

  • 国税局担当者様
  • 財務局担当者様
  • 相続人(納税者)
  • 税理士
  • 土地家屋調査士や測量士
  • 借地人(貸している土地を物納する場合)
  • その他関係者

現地調査自体は、1物件につき数時間で終わります。
ですが、日程調整が大変です。
これらの方々のスケジュールを、誰が調整するんでしょうか?

答えは、「税理士が調整する」です。
当たり前と言えば当たり前なんですが・・・。

具体的には、国税局担当者様と密に連絡します。
一番忙しいのは、財務局担当者様です。
ですので、まずは、国税局担当者様と通して、財務局担当者様の候補日をいくつか頂きます。
そして、そのなかから、相続人や土地家屋調査士、さらには他の関係者に連絡して、スケジュールを調整します。

この作業は・・・大変ですよ!

苦労しながら、日程調整をしたのが思い出されます。

 

国税局担当者様に、実際にご説明した内容について

8c0822942c24ab5bf27703cbc1267dc6_s.jpg今までのご説明のとおり、国税局担当者様からお呼び出しを受けたら、まずは、金銭納付を困難とする理由書の内容についてご説明します。

これにご納得頂けませんと、いきなり物納はダメ!ということになってしまいます。

国税局担当者様は、
「**の内容ですが、ちょっと支払いの見積もりが大きすぎるんじゃないですか?」
と聞いてきました。

細かい内容は守秘義務の関係で言えませんが、要は生活費や月々の支払いが大きすぎるんじゃないか?というご説明でした。

先程のご説明のとおり、生活費は「10万円」と決まっています。
ですが、これはあくまで目安なんです。
具体的に、「毎月**円かかっています」と証明すれば、その内容が認められることもあるんです。

法律や通達には、あまり細かく書いてありません。
これらの事情は、人それぞれです。そのため、法律や通達には、あえて細かく書かず、あくまで基本的な考え方だけを示し、あとは個人的な事情を総合勘案して決めてください。
そのような趣旨になっているんだと思います。

ですので、生活費や、それに関連する大きな出費(自宅の大規模修繕等)を予定している場合、それらを金銭納付困難理由書に織り込みませんと、正しい金額が出てきません。

ですが、何も証明書類がなく、ただ口頭で、
「私は毎月50万円の生活費がかかる!」
といっても、認めてもらえません。

ですので、お客様に趣旨を説明し、個人的な領収書等をコピーさせて頂き、それらを申請書に添付する。
お客様に嫌がられても、やり遂げる必要があります。

私は、これらの書類をきちんと添付し、ご説明書も添付しておきましたので、
「ご説明書のとおりです。また、これはご家庭の中のプライベートのことなので、あえて書きませんでしたが、実はご家族様のお一人が**といった状況でして・・・。」
と、書面で書けない事項を、口頭で補足説明しました。

国税局担当者様はお二人いらっしゃいました。そのうちのお一人(上司)が、
「石橋先生!本当にその内容なんですか?もう少しお話しを聞かせてくださいよ。」
と、若干ですが、強い口調でお話しされます。

誤解があってはいけませんが、国税局担当者様もお仕事で、あえてそのような口調でお話しされているんだと思います。
誰でもかれでも、物納を認めていたら、国の財源がなくなってしまいますから。

私は、ゆっくりと、
「**様(納税者)の現状は、大変厳しい状況です。到らない点はご指導に従います。何とかご理解のほど、お願い申し上げます。」
と、お伝えしました。

ここから、何度か国税局に伺うことになりました。
(訪問回数を数えていませんので、正確な回数は分かりません。ですが、5回~7回程度と記憶しています)

そして、最後の打ち合わせになったときのことです。
厳しかった上司の方から、次のようなお言葉を頂きました。

「熱意が伝わってきました。石橋先生は本当に頑張っていらっしゃる。それが分かります。納税者(お客様)を連れてきてくださいよ。私が石橋先生がこんなに頑張っていると説明してあげますから。納税者は分かっていないでしょ?」

との、ありがたい?励ましの言葉を頂きました。
また、現地調査の際、部下の方からも、

「私も色々な物納に立ち会ってきましたが、石橋先生ほど、何度もご説明に来て、細かいご対応をされる先生はいらっしゃいませんでした。」

このお二人の国税局担当者様からのお言葉は、大変ありがたく、成長の糧になりました。

 

相続税の物納は大変!

物納は、この他にも色々な問題があります。
それらを解決するには、結局は税理士が陣頭指揮をとり、解決していく必要があります。

ですが、お客様には、物納が大変と言うことが、あまりご理解頂けないことも多いんです。
その理由としては、次が挙げられます。

  • 平成18年改正前の簡単な物納のイメージが頭にある
  • 「金銭納付を困難とする理由書」の難しさが、お分かり頂けていない
  • 土地整備について細かな書類提出があり、そのために近隣の押印が必要

一番は、平成18年改正前の、簡単な物納をイメージされているということです。

物納の法律は、平成18年に改正され、とても厳しくなりました。
(この改正前は、本当に緩かったんです・・・)

ですので、この緩かった時代に物納を経験されていると、
「物納は簡単だ」
というイメージを持たれていらっしゃるんですね。

ですが、時代とともに法律も変わります。
きちんと、今の税制、法律を理解している税理士に信頼してお願いすることが、結果的に、お客様の利益につながります。

私も物納は、できるだけやりたくないというのが本音です。
ですが、お困りのお客様がいらっしゃったら、全力でお手伝いしていきたい。
そのために、これからも研鑽を続けたいと思います。

※本記事に関するご質問には、お応えしておりません。予めご了承ください。